2021年2月20日、夜6時頃。8週4日目。
マレーシア駐在時代の友人に会いに横浜まで出かけて帰宅した直後。
遠出と、つわりを押して中華を暴食した無理がたたったか。家でオレンジジュースを飲んで20分経ったころに強烈な吐き気を催し、すべてが出た。今回の妊娠で初めての嘔吐。
水は午後からあまり飲んでいなかった。このままでは脱水症状になる。
あせって水を飲む。また吐いた。
気持ちばかり先行する私を安心させようとしてか、夫は、ベッドに横たわる私のそばに、浅く水を張ったバケツをもってきた。そしてごく普段どおりに話しかけてきた。
「きみはお酒飲まないからね、こういう経験も初めてだろう。今は出すものがあるからまだラクだけど、今に“ドライレインボー”がくるよ」
レインボーって。マーライオンじゃなくて?
ドイツ人は、16歳からビールが飲める。最初は、親が手ほどきをするのだとか。親が見ているところで吐くまで飲ませ、自分の限界をわからせてから、夜遊びに出す。
そんなバックグラウンドをもつ夫。二日酔いと嘔吐の対処なら自分に任せろとばかりに、場数を踏んできた自信を見せる。そんなもの大して自慢にもならないと思うが、この気持ち悪さもわかってくれるし、積極的に看病してくれるので助かった。
3回目の嘔吐はまさに空気砲だった。たしかに吐くものがないほうがツライ。予言どおり、魔のドライレインボー現る。
この日は朝3時頃まで、眠っては吐き、吐いては眠った。その間、夫は黙々とバケツに水を張り替えた。私はベッドに横たわったまま、毎回トイレまで走らなくてよかったのはありがたかった。
あせって水を飲むのは、夫に止められた。
吐いている最中は、胃を休めることが先決。吐いたあと20分以上落ち着いていたら、小さなブレッツェルをひとつ口に含み、完全にやわらかくしてから飲み込む。そのあと水を本当にほんのひと口、飲むというというよりは口に含んでみる。
これでまた様子をみて吐かなかったら、もう少し水分を摂る。
これがドイツ流、嘔吐対策。
嘔吐との戦いは翌日まで続いた。